カーレビュー
 

 M3の「M」はかつてBMWのモータースポーツ専業会社として1972年に設立されたM社の「M」だ。いまでこそ純粋なモータースポーツ部門とは異なる市販車という枠組みのなかで幅広いビジネスを展開しているM社だが、1993年まではF1などのレース活動に深くかかわっていた系譜を持つ。最初に手がけた市販車もグループ4と5のホモローゲートモデルであるM1だったのだ。そして1986年、DTMやヨーロッパツーリングカー選手権を席巻した初代M3(E30)が登場する。このクルマがM3の原点だ。90年代に入るとM3はホモロゲーション用のベース車両という任務を終えるものの、Mブランドのイメージリーダーに成長し、瞬く間に世界中のクルマ好きのハートを掴んでいく。その魅力の根源は「レーシングカーの硬派な匂い」。つまり初代M3のDNAだ。

 さて、このコンテンツの主役となる現行型M3を紐解いていこう。日本に上陸を果たしたのはE92のコードネームを持つクーペが2007年9月、セダン(E90)が2008年3月のことだった。当初は6段MTだけの設定で、F1マシーンの技術を取り入れたといわれているMダブル・クラッチ・トランスミッションを採用するシフトパドル付き7段AT仕様はセダン/クーペともに2008年6月にリリースされている。

 ところでM3といえば最大のセールスポイントは何と言ってもパワーユニットだ。それは2.3リッター直4を積んでいた初代E30のときから変わってはいない。E90/E92では、M3初となるV8ユニット(S65B40A型)を与えられたことがトピック。M3史上最強の420ps・40.8mkgという強大なパワーとトルクを叩き出すこのエンジンはBMWの持つ最新技術を投入してM3用に開発されたもの。ちなみに搭載するコンピュータにはいま話題のテクノロジーとなっているブレーキ・エネルギー回生システムも組み込まれている。とにかくこのエンジンの真骨頂は低回転域での「普通っぽさ」と高回転域の「獰猛さ」を見事に両立させていること。許容回転数はなんと8400rpm! もちろん加速力やコーナリング性能、スロットルレスポンスはリアルスポーツカーを凌ぐもので、ドライバーは「レーシングカーの匂い」と「ラグジュアリーカーの上質感」の両方を堪能できるわけだ。4世代目M3の使命は、新たなファンを獲得することなのかもしれない。