カーレビュー
 

 ハイパフォーマンス・モデルの開発や生産などを行うM社はDTMやF1などのレース活動に深くかかわっていた系譜を持つのはご存じのとおり。そして現在もBMWモータースポーツとは特別な関係にあると言われている。そのことを証明するモデルが当時のF1マシーンと同様のV型10気筒自然吸気エンジンを採用した現行型のM5/M6だ。

 E60のコードネームを持つ4世代目のM5は2004年にリリースされた。最大のトピックは507psの強大なパワーを叩き出すS65型V10ユニットを搭載していること。当時、市販の高級スポーツカーやスーパーセダンなどはV8かV12が一般的で、V10を採用していたのはランボルギーニ・ガヤルドなどの非日常的なエキゾチックカーだけだったのである。それまでのV10は荒削りでセダンなどには不向きとされていたわけだ。ところが、M社は鋭い牙を持つ獰猛な自然吸気の高回転型V10ユニットをビジネスマンズ・エクスプレスとしても使われることの多いM5のために見事に調教してみせた。

 ただし、その回転フィーリングはどちらかといえば野性的でエグゾーストノートも勇ましく、エンジンに火が入った瞬間から自分がハイパフォーマンス・モデルであることを主張する。そんなワイルドなエンジンをコントロールするための手綱役となっているのが、ゲトラクとの共同開発による7段SMGV。それまでM5のSMGは完全な2ペダル・マニュアルだったが、E60ではオートマチック・モードが備わって変速のレスポンスも先代より格段に高められ、実にスムーズにシフトアップ・ダウンを行ってくれる。しかも、オートマチック・モード5種類、マニュアル・モード6種類のシフトプログラムがスイッチの操作で設定可能になっているので、加速力重視と滑らかさ重視を、シーンによって使い分けられるのだ。また、スロットルレスポンスやサスペンションの減衰力、パワーステアリングのアシスト量、さらにはスタートダッシュまでもがドライバーの設定による電子デバイスに委ねられているのだからすごい。

 現代のレーシングカーは使用するサーキットのプロフィールを車載コンピューターに入力することで誰が乗ってもある程度のタイムが出せるところまで進化しているそうだが、M社はそのテクノロジーを市販車に持ち込んだわけだ。そう、開発陣がM5を進化させるために用意した「ファイナル・アンサー」がレーシングカー並みのサイバー化だったのである。

 M5の発表から半年。同じV10ユニットを積むMブランドのクーペ&カブリオレが登場する。6シリーズのトップパフォーマーとなるM6だ。フロントに凄むM5譲りのエンジンは最高出力も同様の507psで、各種電子デバイスも共通のものが採用されている。ただし、ホイールベースはM5より短い2780mm。回頭性が良く、ワインディングロードではより俊敏な身のこなしで高いパフォーマンスを発揮してくれるはずだ。

 史上最強のパワーユニットと最先端のエレクトロニクスを搭載するM5/M6は、まさに究極のセダン&GTといっても過言ではない。時が経ってもその走りが色褪せることはないだろう。