カーレビュー

 本国のデビューから約5年後の2002年3月に上陸を果たした初代カングー。Bピラーから前の乗用車部分に真四角の箱を連結させたみたいなルックスは、お世辞にもスポーティとはいえないデザインの持ち主だ。でも、その個性的なスタイリングが日本人の感性にぴったりハマッた。性別や世代を超えてじわり・じわりと販売台数を伸ばして、ついには日本で新車登録されるルノー車の約半数がカングーというロングセラーモデルに育っていったのである。やはり、クルマも「メイド・イン・フランスのスタイリッシュ感」は日本人の琴線に触れるのだろう。

 実は、この一風変わったカタチをした小型車は、フランスではフルゴネットと呼ばれているお馴染みの小型貨物車。ルノーではキャトルにもフルゴネット版が存在していたし、フリークに人気のエクスプレスも同じカテゴリーに属するクルマと考えていい。また、シトロエンやプジョーからもコンパクト・ハッチバックのプラットフォームを使った同様のフルゴネットがリリースされている。つまり、本国では街のパン屋さんや酒屋さんが仕事で使う商用車のメインストリーマーなのだ。

 だから日本の「軽四」がそうであるように、低燃費の小さいエンジンに広い荷室が基本。初代カングーも当初は1.4リッターエンジン、2003年からは1.6リッターを積み、余裕で5ナンバー枠に収まるコンパクトなボディを持ち、もちろん後席を倒せば広大な荷室となるわけだ。カングーの大きな特徴となる両面に設置されているスライドドアと観音開きのリアゲートも個性を主張するためではなく、荷物の積み卸しを考慮した装備なのである。

 で、出自が商用車となると「動力性能と乗り心地が心配」という方が多いだろう。でも安心していただきたい。95psのパワーを発揮するエンジンはフランス車らしく高回転まで良く回るし、シンプルな4段ATとの相性も抜群。街中でのストップ・アンド・ゴーも、さらに高速でも、活発に走らせることができる。そして、何と言ってもカングーの美点は、乗り心地が非常に良いこと。通常、商用車は荷物を満載したときのことを考慮して硬く跳ねるようなサスペンションを備えている。でも、カングーにはそんな商用車っぽさが微塵もなく、ダンパーのストロークにも余裕があってしなやかさに溢れているのだ。高速でのフラット感も一級品と断言できる。また、いまどき珍しい175/65R14というタイヤも泣かせるほどいい味を出している。とにかく、そこに溢れているのは走る楽しさとゆったりした乗り心地。たとえば、ファミリーカーやデートカー、お買い物グルマとしても充分使えるわけだ。ちなみに後席にはピクニックテーブルまで備えているからアウトドアも楽しめる。

 スタイリッシュなルックスと桁外れの広い室内、人も荷物も積めて、乗り心地も抜群に良い。さらに、アップライトなポジションと大きいウィンドーが気分的にも明るくしてくれるだろう。カングーはカッコだけじゃないのだ。さすが売れるだけあって中身がしっかりしている優等生なのである。

カングー(2002-2009) 1.6 4段AT

●全長×全幅×全高:4035×1675×1810mm ●ホイールベース:2600mm ●車両重量:1200kg ●エンジン形式:直列4気筒DOHC、1598cc ●最高出力:95ps/5000rpm ●最大トルク:15.1mkg/3750rpm ●変速機:4段AT ●駆動方式:前輪駆動 ●タイヤサイズ:175/65R14