カーレビュー

 マニアックなニッチカーとしてフリークの間で珍重されていた初代カングーは、その可愛らしいルックスや高い実用性、そして快適な乗り心地が一般の人のハートを見事につかんで、ルノーの日本における新車販売の半分近くを占めるほどのヒット作となった。見る人にカワイイと感じさせる最大の要因はコンパクトなボディにあったことは言うまでもないだろう。

 で、2009年9月に上陸を開始した2代目カングーはどうなのか? なんと、でっかくなったのだ。その雰囲気はもうフルゴネット(小型貨物車)ではなく貫禄さえ感じさせるミニバン。先代は余裕で5ナンバー枠に収まっていたものの、全長4215×全幅1830mmの堂々たる体躯を持つ3ナンバーサイズとなった。実際、どのくらい大きいかというと、全幅はトヨタの高級ミニバンとしてお馴染みのアルファードと同サイズなのだ。でっかい! ちなみに使用するプラットフォームもルーテシアからメガーヌへと格上げされている。

 導入当初はフリークの間から「でっかくなったカングーってどうなのよ?」という声が聞かれたものの、果たして新車販売は先代の勢いを保ったまま好調をキープ。売れに売れているのである。やっぱりカングーは日本人の琴線に触れる「何か」を持っているのだ。

 乗り込んでみても見た目と同様に商用車感は消え去っている。どちらかといえば簡素だった先代とは異なりイマドキのインテリアに進化。装備も充実して、フルオートエアコンやオンボードコンピュータ、インパネシフト、またスライドドアのウィンドーも開閉できるようになった。そして、とにかく室内は広い。まさに広大という表現が相応しく、後席のニースペースやヘッドルームは国産ミニバン並み。さらに6:4の分割可倒式のリアシートを倒せばラゲッジルームの広さは半端ではない。なんと荷室のフロア長は1.8mに達するのだ。

 街中を走らせてみれば、そこにはもうコンパクトなクルマを運転している感覚はない。さすがに全幅が1800mmを超えているから狭い路地などでは気を遣う場面も出てくる。でも、相変わらずシート位置が高く見切りが良いしサイドウィンドーも大きいから意外と運転はラク。女性の方や初心者でも慣れれば問題なく使えるだろう。

 そして、2代目の美点もやっぱり乗り心地にもある。先代も優秀なサスペンションを備えていたが、さらに進化して重厚感、というか高級感さえ感じさせてくれるようになった。大きな突き上げもストロークに余裕のあるダンパーがすべて飲み込んでしまうし、路面のザラ付きも見事に吸収してくれる。もちろんそれはフニャ・フニャしたものではなく、剛性感があって高速のフラット感も一級品だ。室内に入り込んでくるロードノイズも格段に抑えられている。

 ただし、エンジンは先代と同じ1.6リッター直4。最大出力は向上しているものの、なにせ260kgも重くなっているから先代の軽快感は影を潜めた。でも加速力は必要にして充分、アンダーパワーを感じさせる場面はまずないだろう。もちろん、高速の100km/h巡航も快適そのものだ。

 さて、2代目カングーをどう使うか。先代を商用車として路地裏まで入り込みながら配達などに使っていた方は厳しくなったかもしれないけれど、ファミリーカーとして、またアウトドアを趣味に持つ方がグランドツアラーとして使うにはさらに魅力的な存在となったはず。後席のキャンピングテーブルや12V電源、またオーバーヘッドコンソールなどの装備も踏襲されている。カングーは日常生活を楽しいものにしてくれる「達人」であることに変わりはないのである。

カングー(2009-) 1.6 4段AT

●全長×全幅×全高:4215×1830×1830mm ●ホイールベース:2700mm ●車両重量:1460kg ●エンジン形式:直列4気筒DOHC、1598cc ●最高出力:105ps/5750rpm  ●最大トルク:15.1mkg/3750rpm ●変速機:4段AT ●駆動方式:前輪駆動 ●タイヤサイズ:195/65R15